2022年10月からフジテレビ系列で放送されたドラマ。

自己評価の高い裕福な実家暮らしの若いテレビマンが、あることをやらかしたお陰で冤罪事件を調べ直すことになり、やはり訳あって報道の現場から外された女性アナウンサーと一緒に解決に向けて動き出す…という重めの話なのですが、ところどころに挟まれたクスリと笑わせてくれるエッセンスと、人生を生きる上で誰もが感じる皮肉とが絶妙なバランスを保っていて、ドキドキしながらも疾走感に乗って続きが観たくてたまらなくなりました。

社会の問題点と、自分自身の問題点がリンクして、登場人物のそれぞれが変化していきます。

自己評価の高い裕福な実家暮らしの若いテレビマン岸本拓朗を演じるのは眞栄田郷敦さん。はじめはぼーっとして深く物事を考えない、へらへらして周りに流されるタイプの若者だったのが、自分が過去に置いてきた本当の気持ちと向き合うことになり、親離れをして一人前になっていく過程だったり、途中で挫折して病んでいく様子だったりと、がらりと雰囲気が代わっていき、すごい役者さんだなあという印象を持ちました。

報道の現場を外されたアナウンサー浅川恵那を演じるのは長澤まさみさん。アナウンサーの発声を特訓なさったのでしょうか、もう、本物のアナウンサーといってもおかしくない感じで、役作りがすごいと思いました。

やはり色々あって報道の現場を外されたチーフプロデューサーの村井喬一を演じた岡部たかしさんの演技もすごかった。最近のNHKの朝ドラ「虎に翼」では、温和で頼りない感じの主人公のお父さん役をされていましたが、全く違って、パワハラ・セクハラ三昧でしゃべりまくり暴れ回るけれども魅力的な役柄を見事に演じられていました。

鬼気迫る演技で引き込まれたのが三浦透子さん。冤罪で死刑を宣告されている男性の無実を信じているヘアメイクの大山さくら役なのですが、過去に背負ってきた家族との関係性や、冤罪で男性が捕まったキッカケを作ってしまったという深い思いを、言葉の数は少ないのですが全身から滲み出ているのがすごいです。

三浦透子さんは、女性が徳川の将軍となるNHKで放送されたドラマ「大奥」で徳川家重の役を演じられていましたが、障がいがあって癖の強い女性の心が繊細に伝わってきて、こちらも鬼気迫る演技だと感じていました。

最初は、不純な動機だったり、報道に対する思いだったり、何かを見返したい思いだったり、それぞれの思惑で冤罪と向き合っている登場人物たちが、自分自身の中にある問題点と向き合い、さらに協力者や犯罪被害者の方の真剣な思いを背負っていき、人として成長したり挫折したりしながら、それでも諦めずにやり遂げていくストーリー展開が熱くて重くて、スカッとしたり、モヤっとしたり。とにかく素晴らしい脚本だと思いました。

作品を盛り上げる音楽の担当は、NHKの朝ドラ「あまちゃん」でも音楽を担当された大友良英さん。作品のエッセンスを音楽に凝縮させる才能が素晴らしいですよね。「あまちゃん」の曲もですが、この「エルピス」の曲もずっと耳に残ります。登場人物を励ますような、壁をこぶしでぶち壊すような、倒れても立ち上がる様子を表現しているような、力強いメロディ。

Wikipediaの受け売りですが、はじめはTBSにお勤めだったプロデューサーの佐野亜裕美さんが脚本家の渡辺あやさんのもとに、TBSの意向でラブコメを書いてほしいと持ち込んだところ、面白い案が浮かばず、2人で話が盛り上がった社会的な問題点を題材にしたテーマを提案することになったのだそうです。→詳しくはWikipediaで

ところが、それがTBSで却下され、いろいろあって佐野亜裕美さんは失意のうちにTBSを去り、フリーランスとして企画を持ち込んだカンテレに入社することとなり、6年越しでようやく実を結んだいう経緯があったそう。

なんだか、まるでこの作品のストーリーの一部のような…

察するに、本当に熱い思いで作られたドラマなのだというふうに思います。その熱さが観る側に伝わってきます。

ストーリーも続きがありそうな感じで終わったので、ぜひ続編が観たいです。

テレビドラマの制作にはたくさんの人が関わり、会社やスポンサーの意向もあるでしょうから、いろいろと大変なのだろうと思います。配信が広まり、テレビ業界もうかうかしていられないはず。制作者が本当に作りたくて作り、視聴者が本当に観たいと思う、骨太な作品が増えていけばいいと思います。